『恐怖分子』
1986年 台湾
《スタッフ&キャスト》
監督 エドワード・ヤン
脚本 エドワード・ヤン/シャオ・イエー
撮影 チャン・ツァン
音楽 ウォン・シャオリャン
出演 コラ・ミャオ/リー・リーチュン/チン・スーチェ/クー・パオミン/マー・シャオチュン/ワン・アン
《解説》
この映画は視覚の歓びに満ちた、動くモダンアートだ
1980~90年代には台湾ニューシネマを牽引した鬼才、エドワード・ヤン監督が86年に手掛けた長編第3弾
1980年代の台北 警察の手入れから逃げだした混血の少女シューアンが掛けた一本のイタズラ電話をきっかけにして奇妙な連鎖反応が起こり、何の接点もなかった人々に悪夢のような悲劇が起こる
《物語》
台北、夜明けの街でパトカーのサイレンの音が響く アマチュア・カメラマンのシャオチャンは恋人のシャオウェンを置いてカメラを持って外に飛び出した
古アパートの賭博場が警察の手入れを受けたのだ、警察隊に包囲されたビルの裏側からハーフの不良少女シューアンが飛び降り、足を引きずりながらも逃げる彼女の姿をシャオチャンは撮り続けた
スランプに苦しむ小説家のイーフェンは仕事だけが生きがいの医師の夫リーチュンを朝、仕事に送り出した 病院では課長が亡くなりそのポストを狙って皆が画策中でリーチュンもその1人だ
イーフェンは昔の勤め先を訪ね、元恋人のシェンと再会し、昔の話に花を咲かせ自身の本を一冊プレゼント
シューアンは病院から母親に連れ出されて家の中に閉じ込められた シューアンを撮影したシャオチャンはそれが原因で嫉妬したシャオウェンとケンカとなり部屋を出て行った
そしてシャオチャンは空き部屋となっている例の古アパートへと引っ越した、シャオチャンが出て行った事に呆然としたシャオウェンは睡眠薬を飲んで自殺未遂
イーフェンはスランプから抜け出せずシェンに相談、シェンはイーフェンにやり直そうと告白し、2人はベッドを共にする
家に閉じ込められイライラのつのるシューアンはイタズラ電話を始める、電話帳で見付けた適当な相手に掛ける 偶然にイタズラ電話に出たイーフェンは知らない女に不安を抱く
イーフェンは指定された場所に行くとそこは例の古アパートで出てきたのはシャオチャン イーフェンは立ち去りそのまま家には帰らなかった
足の治ったシューアンは家から抜け出し知り合った男とホテルへ、相手の男の財布を盗んだところを見られてはずみで男を刺して逃げてしまった
逃げ込んだのは例の古アパート、そこでシューアンはシャオチャンに出会う 熱のある彼女はそこで倒れ、シャオチャンに看病され一夜を共にする
何の接点もなかった彼らだったが奇妙な連鎖反応がもたらしやがて悪夢のような悲劇が起こる
《感想》
なんだかパワーのある作品でしたね、最初から白昼でドンパチしてハーフの女の子シューアンが窓から飛び降りて逃げるオープニング、何かが始まりそうな予感です
それに群像劇なので色んな事が起こるんです、そのシューアンを激写したシャオチャンはその魅力に憑りつかれたように自分で撮った写真に執着
写真家なんてものはこんなもんなんかな? でも後にこの2人は再会するんですけどね 少女なのに男をホテルに誘って刺したり、賭博場に出入りしたりと不良少女です
そしてイーフェンは医師で夫のリーチュンと冷えた関係です、スランプに苦しむ作家のイーフェンはリーチュンが今まで作家をさせてやってたと言うんです
それもあってかイーフェンは元彼のシェンに相談してそのまま関係を持ってしまいます こんな簡単に体を許すんですね かつて関係があったからハードルが低くなってるのかな?
夫のリーチュンは仕事の昇進もなくなり怒りで頭がおかしくなって刑事から銃を奪ってシェンとイーフェンの元に行きます
なにはともあれ最初の事件現場の部屋が映画の核となってよく出てきます 事件現場の部屋をシャオチャンはよく借りれましたね、いつかシューアンと会える予感があったのか、それとも神頼みだったのか?
街中を歩くシーンでは映画館のポスターが邦画の「里見八犬伝」や「カラーパープル」だったりして懐かしさもありましたね
エドワード・ヤンを一躍、台湾のニューウェーブの旗手に持ち上げた現代感覚溢れる問題作 それが『恐怖分子』です。
1986年の台湾作品ですが、日本では1996年に公開されて、2015年にはデジタルリマスター版が劇場公開されました 埋もれた名作はまだまだありますね